野原かおり
ドローイング展
2022.9.23 fri−10.2 sun
11:00−18:00 close:9/27 tue
omotesando atelier 奥の部屋
4-3-18 Jingumae, Shibuya-ku, Tokyo 150-0001 Japan MAP
Tel:03-6804-1097
omotesando-atelier.com
線の揺らぎとにじみが心性を写し
複製や重ねが律動を生み、
導かれるように形ができる
形に想いなどなく、
その行為そのものに宿る
しかし形に美を求め、
くりかえしくりかえし線をひく
詩人ぱくきょんみさんとコラボした詩画本も販売。「どこからともなく どこへともなく」の作品から着想を得て書き下していただいた素敵な詩です。
『あの夏の砂つぶが』
ぱくきょんみ 詩 野原かおり 画
どうしたらこの紋様を消せるのだろう。
線はどこからともなくやってきて、紙の上でつかのまの休息を得て、どこへともなく去って行く。とどまるあいだ、繰り返しつぶやき、蚕の糸のようにえんえんと線が吐き出され、そこにある空間を埋めていく。砂漠の風紋は乾いていてサラサラしているが、この紙の上の等高線は、湿っていてこびりつく雪紋のようだ。指紋の間に付いてしまった塗料のように、洗っても洗ってもなかなかとれない。
線の重なりは、内側から外側に重ねられていく樹木の年輪のようなハッキリとした意志を持たない。この紋様は、内側から重ねられたのか、それとも外側から内に向かって重ねられたのか。できるだけ同じ間隔で、でもそれもかなわず、ただ交叉しないことだけを願いつつ。永遠にその痕跡を紙の上に刻んでおきたいという願望と、今すぐにでも立ち去りたいという願望が鬩ぎ合う。
線が震えている。たどたどしさが面を埋めていく。うめきながら。まるで修道女の祈りのようだ。気の遠くなるような長い時間のなかで繰り返されるひとこま。聞きとれはするが、意味は分からない。
どうしたらこの紋様を消せるのだろう。その術を探して目はあてどなく線を辿り、耳は木霊を聴き取ろうとする。
建築家・東京大学名誉教授 内藤 廣